恋せぬふたり①②

またNHKで面白いドラマをやっている。

 

高橋一生岸井ゆきのがダブル主演を務める「恋せぬふたり」。

他者に恋愛感情も性的感情も抱かないアロマンティック・アセクシュアルの男女が共に暮らすという話だ。

 

現時点で2話まで放送しているが、すでに手元のわかる!ボタンは塵と化している。

 

とはいえ自分自身はヘテロだし、アロマンティック、アセクシュアル、アロマンティック・アセクシュアルというセクシュアリティについてもドラマで語られる以上の知識はない。ただドラマの中の二人が社会生活の中で感じている居心地の悪さや閉塞感には激しく共感した。

 

主人公の咲子(さくこ)はいわゆる「普通の幸せ」を絵に描いたような家庭で育った。父親は会社員、母親は専業主婦、そして妹はすでに母となり次の「普通の幸せ」を築こうとしている。

咲子の家族にとって恋をすること、結婚して子供を育てることは当たり前のことで、未だ浮いた話一つ持ってこない長女は家族の中で浮いていた。

「誰か紹介してもらったらいいじゃん」

「もういい歳だし」

「今は仕事が楽しいんだろう」

家族は口々に言う。しかし咲子は首を傾げて曖昧に微笑むことしかできない。

咲子の世界には恋というものが存在していないのだった。

 

職場や家庭などで感じる周囲とのずれにモヤモヤする日々の中で、咲子は偶然見つけたブログでアロマンティック・アセクシュアルという言葉を知り、初めて自認する。そしてそのブログの主が取引先のスーパーで働く高橋さんだと気づき、やや強引な話し合いの末共に暮らすことになる。

 

1話のわかるボタン連打ポイント:

・『一人が好きなんですね』と言われる。

  僕はそうじゃないから困ってる。

・「恋愛しないってことは多分、一人で生きていかなきゃいけないってことじゃないですか」

わかる、と思うと同時にそんなことあってたまるか、とも思った。

人間同士を結びつけるのは恋愛感情だけではないし、人間以外にも共に生きてくれる存在はいくらでもいる。友達、次元を超えたパートナー、ご近所さん、猫。なんでもいい。

とはいえども、人を恋しいと思う気持ちは確かにある。痛いほどに。

だから二つ目の前咲子の台詞に対する高橋さんの返答はとても救われるものだった。

 

2話のわかるボタン連打ポイント:

「なんでそんな失礼なことばっかり言えるの?」

二人が恋人のフリをして咲子の実家で家族と食事をすることになった折、妹夫婦の無神経な発言の数々と純粋に娘の「幸せ」を喜ぶ母の親心についに耐えられなくなり咲子が思いの丈をぶちまける場面。

この咲子の台詞がなぜかとてもしっくりきた。確かに、理解がないとか無神経とか以前に、彼らの態度はただただ失礼だった。

 

「なら、納得も理解もしなくていいんじゃないですかね」「ただ、なんでこういう時って、こういう人間もいる、こういうこともある、って話終わらないんですかね」

ここ。わかるボタンが蒸発した瞬間。これ以上に完璧な回答あるだろうか。言いたいことを全て言ってくれた。

 

咲子が感情を溢れさせている間、義弟は気まずそうにへらへら笑い、妹は迷惑そうに俯き、母は娘の言葉が理解できずに取り乱していた。その中でただ一人だけ、じっと黙って聞いている父親の姿があった。

「無理に、無理に恋だの結婚だのしなくていい。お前が何者でも、俺の娘には変わりない。」

おお。

「とにかく、うちに帰ってこい」

ああ。

 

 

想像力の欠如は暴力になりうる。